薬剤師を楽しもう!

調剤薬局での数値管理(1)

私はある薬局の薬局長をしていますが、調剤薬局でも責任者に
営業の数値管理をさせる会社組織もあると思います。
今私が勤めている会社はそのような指示はないのですが、今までの習慣からか、
今自店の営業数値がどういう状況か気になります。
医療人は商売人ではないのだから、そういうことはけしからんという考え方もあるとは思いますが、
例えば理想のためなら自らが属する組織が生き残れないような損失を出しても構わない、
わけではないはずです。
そのためにも、マネージャー(管理者)には、最低限の数値管理と、
そのための知識は必要と私は思っています。
例を挙げながらそのあたりの話をしてみようと思います。


今回は「売上」「粗利」を中心に説明してみます。

まず「売上」ですが、一般社会では「売上を伸ばせる営業マン」が出世することも多いでしょう、
身近ではMRさんでしょうか。今回は調剤薬局で売り上げを伸ばすための話まではしませんが。
調剤専門の薬局であれば、処方せんに依るものが売上のほぼすべて、でしょう。

 売上=調剤報酬=一部負担金+基金等のレセプト入金
   =調剤技術料(調剤基本料+調剤料)+薬学管理料+薬剤料(+特定保険医療材料料)

が一般的でしょうか。レセプトを意識している方ならお分かりと思います。
売上の式としては、ほかにもあります。

 売上=客数(患者数、処方せん数)×客単価(平均処方せん点数)

でもあります、ドラッグストアやコンビニなど小売業でよく使われる式です。
売上は、客数を増やすか、お客さんが一度に高く買ってくれる
(たくさん買う、高額商品を買ってくれる)ようにすれば増えるという考え方です。

 例:1か月売上1000万円、処方せん数1000人の調剤薬局にて
    調剤報酬1000万円=一部負担金150万円+入金850万円
            =技術料&管理料250万円+薬剤料750万円
            =客数1000人×処方せん1枚単価1万円

だいたいこれくらいの数字になると思います。
一部負担金は現金ですぐに手元に入りますが、入金は約2か月後となるので、
資金繰りを考えるとなかなk厳しいものです。


次に「粗利」ですが、この言葉を聞いたことがない方もお見えと思います。
別の言葉として粗利益、荒利、売上総利益とも呼ばれますが、要は「もうけ」です。
売上から売上原価(調剤においては使った医薬品の仕入れ値)を引いた額です。
また、売上÷粗利 を%で表し、粗利率と言います。

 粗利=売上-使用医薬品額=売上-薬剤料×(1-薬価差益率)
   =調剤技術料+薬学管理料+薬価差益

最後の式を見るとわかりますが、薬価差益はそのまま足し算になります。
これは未分業の医療機関でも同じことで、医科での算定努力は行ったうえに、
仕入れ値交渉をすればそのまま利益として上乗せできるのです。

   例:1か月売上1000万円、薬価差益10%の調剤薬局にて
    粗利=売上1000万―薬剤料750万×90%
      =技術料&管理料250万円+750万×10%
      =325万 粗利率32.5%
    これが薬価差益15%になると...
       250万+750万×15%=362.5万 

1か月あたりで 37.5万円も薬局の儲けが増えます。
若い薬剤師の1人分の人件費くらいありますね!


上の式では、おおざっぱな粗利や1か月程度の短期間の粗利を見るのには便利ですが、
実際の粗利の計算は正確な「使用医薬品額」を見なければいけません。
使った医薬品を正確に知るために、正確な「在庫額」が必要になります。
そのために最低年2回「棚卸」が行われます。

正確な粗利は、

 粗利=売上-使用医薬品額=売上-(期首在庫+期間仕入額-期末在庫)

 となります。会社などの「決算」で用いられる粗利はこの計算になります。

ここでの問題は、「ロス」です。
散剤の秤量誤差など仕方ない場合もあると思いますが、
期限切れや門前病院の従業員用の薬として譲る、さらには原因不明など、
薬局によっては売り上げの2%近くもあるようです。
これらロスは自らの給与を減らしているともいえます。

   例:1か月売上1000万円、期首在庫額500万円、期間仕入額675万円、
     期末在庫額500万円
  粗利=1000万-(500+675-500)万=325万(薬価差益10%と同じ結果です)


  しかし、廃棄医薬品が20万円あり、期末在庫が480万とすると、
  1000万-(500+675-480)万=305万 

当たり前ですが、廃棄した医薬品額分、そのまま利益が減りました。
引き取り手もない期限切れで廃棄ならば仕方がない、と言えるかもしれません。
しかしこれが原因不明、もしくは従業員が勝手に持ち出してとなると、
そうですかで済む話ではありません。

会社単位で考えれば、期末在庫を増やす(見せかける)とその時は粗利が増えて見えますが、
それは粉飾決算の手口でもあります。
ただし実際に期末に大量購入して粗利をよくしたとしても、
結局購入分のお金を支払わねばならず、もし支払いできなければ「倒産」です。
逆に期末在庫を少なく見せかけると、粗利が減ります。
儲けが減れば、法人税という会社の儲けに対してかかる税金が減るので、脱税の手口でもあります。

店単位では、棚卸は店舗の利益を確定させるのにとても大切な作業になります。
期末在庫を間違えると、次の期首在庫も正しくない為、
次の期間の利益も正しく出せないことになります。
自分たちの仕事の利益が正しく計算できなければ、
自らの給与額や賞与額の根拠も怪しくなってしまいます。

今回は売上と利益の単純な話をかなり細かくしましたが、
今回例に出した数値を使って、次回は調剤薬局でもできる、
薬局長管理指標を挙げてみようと思います

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