薬剤師を楽しもう!

高血圧や糖尿病のある方に経口補水液を販売する?

厳しい残暑が続きますね。
ひと昔前には、脱水症(当時は日射病と主に呼ばれていましたが)の治療に
ソリタT顆粒3号が院外処方されていたことを思い出します。
今は経口補水液の、大塚製薬「OS-1」があり、そのまま飲めますから便利で、かなり売れていると思います。
調剤薬局でも置いているところは多いですし(自店の薬局でも置いています)、
ドラッグストアでは目立つところで山積みになっています。

ただし、暑いからといってお茶代わりに経口補水液を飲むのは、私はあまりお勧めしていません。
先日自分がいる薬局にも、自宅に帰る間に車で飲むから冷えたOS-1無い?と聞かれた方がお見えでしたが、
糖尿病や高血圧の治療薬を飲んでいる方でしたので、
大量の汗をかいたのでなければカロリーの面と塩分量の面からも、普通のウーロン茶や緑茶などの方が良いですよ、
とお話しさせていただいたことがありました。
ただし全員がというわけではなく、これだけ暑いとなると、
高齢者で冷房のないお宅や、起床時などには飲んだほうが良いケースも、もちろんあります。
生活全般のヒアリングをしたうえで、適切なものを紹介できることが、薬剤師として必要と思っています。


実際のOS-1には、500mlあたり食塩1.5g、ブドウ糖9gが入っています。
まずナトリウム(食塩)ですが、血圧に直接関連しますので高血圧の方は極力控えるべきです。
日本高血圧学会では、高血圧患者の塩分摂取量は、6g未満にするよう勧めています。
(健常人も6g未満でよいと言われていますが、実際には10g以上摂取の状態です)
日本人の通常の食事で6gにするのは難しいくらいで、お味噌汁を制限している方もよく見えますが、
そのお味噌汁1杯でOS-1と同じ1.5gになります。
本来、発汗時に消耗したナトリウム量と食事の制限量は、同時に並べ比べる数字ではありませんが、
それなりの量が入っていることと避けるべき方が気軽に摂ってよい量ではないことは、
お分かりいただけるのではと思います。

ブドウ糖9gで31kcal、OS-1自体で50kcalあります。
もちろん、本来の経口補水液の使い方である「感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を伴う脱水状態」や、
実際に脱水症の初期状態であれば、カロリー補給だけでなく、
ブドウ糖と同時に補水することにより水分の吸収スピードが上がるのですから重要な意味を持ちますが、
糖尿病については総カロリーの調整が重要です。
たった50kcalですが、これら余分なカロリーが積み重なれば血糖コントロールにもよくありません。

炎天下でのスポーツや農作業のようにかなりの発汗を伴うケースには、
脱水症熱中症の予防からも経口補水液は有用だとは思いますが、
これらの持病のある方はただでさえ脳梗塞や心筋梗塞などの発症の可能性が高く、
脱水時にはより起こりやすいわけですから、そもそもそういう場面をできる限り避け、
暑い時は普段はこまめに水分をとることと、適切な食事で、十分対応できるのではと思います。


ほかにも、発汗や経口補水について、患者様に話をする参考になりそうな情報を記載しておきます。

大量に発汗すれば、水分だけでなく血中の塩分も同時に汗として消費しているので、塩分補給は必要です。
一度に大量の水分を塩分を取らずに補給すれば、血中の塩分濃度が薄まり、
こむらかえりや筋肉のけいれんを起こしやすくなるだけでなく、
ひどくなれば水中毒の危険もあります(水中毒で亡くなるケースもあります)。

実際に汗で消費される塩分量ですが、基本として汗の中の塩濃度は0.3%が一つの目安です。
ただし個体差もあり、発汗量が多くなれば倍程度には濃度も上がります。
OS-1には、0.3%で食塩が含まれていますので、発汗量に対しその量を補給すればよいという意味でも便利です。

この時期(外気温30~35度)の運動中の発汗量は1時間当たり1000~3000ml程度と言われます
(運動の強度、温度湿度や服装にも差はります)。
発汗量(脱水量)は、運動前後の体重を量れば目安になります。
体重当たりの脱水量が2%を超えると厳重注意、3%を超えると熱中症の危険性大となります
(たとえば体重60kgの1.2kgで2%、1.8kgで3%)。
60kgの方の熱中症危険水域である3%、1800mlの発汗は1~2時間の運動で届いてしまうことになります。
しかし1800mlもの経口補水液を一度に飲んでも、すぐには吸収されません。
発汗前、また発汗中にもこまめな補給が必要になります。

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