薬剤師を楽しもう!

医薬品販売とテレビ電話...10年前にあった騒動

一般用医薬品(OTC,市販薬)の販売がネットでできるようにという、政府方針が発表されました。
ちょうど10年前に、同じような構図で薬剤師会や規制側と規制緩和側が対立し、
新しい仕組みを使って直接の対面販売を不要にしようとした騒動がありますので、
ご紹介しておこうと思います。

2003年にドン・キホーテというディスカウントショップが、
OTCを販売するのに薬剤師の対面販売ではなく、テレビ電話による通話での対面販売を、
東京の店舗で始めました(行政指導が入った後は無償提供に切り替えられました)。
店舗に薬剤師などの資格者はいない状態です。

当時すでに薬剤師だった方、とくにOTC販売に関わった方は記憶にはあると思います。
背景として、
・OTC販売するには薬種商など一部を除いては薬剤師の常駐が必須だった
(実態はいろいろあったようですが)
・登録販売者という制度・資格はまだできておらず、
 営業規模が拡大していたドラッグストアで、OTC販売に携わる薬剤師が不足していた
などがあったと思います

ドン・キホーテ側は、
「テレビ電話の仕組みを使えば、通常の相談と同じ質を確保できるのだから問題ない」として、
薬務行政側の言い分はいろいろあったと思いますが、
主には「店に薬剤師がおらず、実地に管理していない状態での販売は認められない」ということで
衝突しました。
まあ役所と商売する側が揉めることはよくあることと思いますが、
当時の東京都知事だった石原慎太郎氏が「厚労省の役人は頭が固い、ばかだ」と言い放ったのです。
それによって、都の薬務行政側は軌道修正して、適法として処理し始めました。
発言に影響しているかどうかは知りませんが、
ドン・キホーテ側から石原氏側に政治献金していたとも聞いた記憶があります。

結果としては、午後10時から午前6時まではテレビ電話を利用し、
センターにいる薬剤師がテレビ電話で対応して「販売」することを、厚生労働省が認めました。
ほかにも細かい条件はいろいろありますが。

その後は、テレビ電話を導入する費用、深夜営業自体がまだ進展しなかったこと
(深夜営業しても販売拡大や利益がそれほど望めないこと)などから、
テレビ電話を利用したOTC販売は、たいして広がらずに終わりました。
ドン・キホーテでも、ほどなく終了したと聞いた覚えがあります。

ただ、登録販売者制度ができたきっかけは、この騒動だったような気もします。
薬剤師不足があって、医薬品の販売時間が限られているから問題だ、という認識が
共通で得られたのではないかと。

さて、今回もどうやらネット通販とはいえ、薬剤師などが「電話等で」確認したうえで販売する、
という形になるようです。
どれだけ反対しても、このように過去に認めた実績があるので、引き返すことはできません。
今後は規制側と規制緩和側で、ルールをめぐっての綱引きが始まるでしょう。
ただ気になるのは、世間はネットで普通の通販のようにクリックのみで購入できる、
と思われているのではないでしょうか。
過去の経緯を見ると、スカイプや電話であっても、いちいち直接会話応対が必要ならば
それほど浸透しないような気もします。

しかし、「店頭でもネットやテレビ電話を介して相談販売する」という形式も可能なのかどうか、
もし可能であればドラッグストアの店頭にTV電話が並んで、そこでお客さんが話している
という風景が見られるようになるかもしれません。
ドン・キホーテの騒動ではその仕組みは立ち消えになりましたが。

そうすれば、例えば100店舗あっても、薬剤師や登録販売者は数人で対応でき、
資格者はかなり少なくて済むようになるでしょうし、深夜営業も進むようになるのかもしれません。
例えば、今は土日に薬剤師がいないため、第1類のOTC販売を土日は休んでいる
ドラッグストアがけっこう多いですが、店に薬剤師がいなくても販売できるとなれば、
大手企業もこの仕組みを導入検討するでしょう。

今回の医薬品ネット通販解禁の結果が、単にそれだけにとどまらず、
薬剤師をはじめとする資格者の働き方や、
もっと先の、例えば消費者の医薬品購入意識の変化といったことを
引き起こす可能性もあるかもしれません。

前の記事 : 一般名処方対象薬剤の不思議
次の記事 : SSRIとNSAIDs