この時期になると気になるのが、薬系大学の入試状況です。
薬学部に入学したいと志望し受験に訪れた高校生は果たして、
例年に比べて多かったのか、少なかったのか。
各薬系大学の教員に話を聞くと、どうやら今年は前年より受験者数は多かったようです。
話を聞いた教員は、安堵の表情を浮かべているように見えました。
Web出願を導入した大学では特に受験者が多かったとのことですが、
全般的にどの薬系大学においても、受験者は増えた模様です。
かつては、薬学教育6年制への移行に伴って、
ただでさえ高額な薬学部の学費負担が増えることや、
社会に出るまでの期間が2年延びることなどを懸念し、
薬学部への進学が受験生に敬遠された時期も、過去にはありました。
その結果、地方の新設薬系大学では受験者が減少し、
やむなく定員割れに踏み切った大学がいくつもありました。
しかし、昨年は薬学部の受験者数が増加し、各薬系大学は苦境から脱しました。
今回の受験では、そのような上昇傾向がさらに強まったようです。
なぜ、受験者数が増えたのでしょうか。
ゆとり教育を受けた高校生は今年で最後だそうです。
次回の受験からは試験問題のレベルが上がると見込まれるため、
高校生は浪人を避けようとして、
受験する大学の数を増やしたという影響があるようです。
もう一つは、これが最も強い要因だと考えられますが、
他学部の卒業生が就職に苦労する中、
薬剤師不足を背景に、薬剤師や薬学部卒業生に対する社会のニーズは高く、
就職に強い学部として再評価されたことによって、
薬学部の受験者が増えたのだろうと思われます。
受験者が増えることは各薬系大学にとって、好循環を生み出します。
受験に伴う収入は増えますし、定員割れも防止できます。
受験者が多ければ、それだけレベルの高い学生を選抜して入学させられます。
中高の学習内容を手取り足取り復習させる苦労も小さくなるでしょうし、
薬剤師国家試験の合格率も向上することでしょう。
何より、質の高い卒業生が社会に出て、大学のブランドを形作ってくれます。
一方、社会に出て活躍するためのパスポートともいえる薬剤師国家資格については、
3月1、2日に実施された国家試験の合格者の発表が3月31日に実施される見通しです。
既にその観測値が飛び交っていますが、昨年に比べて合格率は低下するとの見通しが濃厚です。
これまで高い合格率を誇ってきたある薬系大学も「今年は大幅に下がる」と嘆いていました。
この薬剤師国家試験の合格率の低下をどう考えればいいのでしょうか。
薬剤師国家試験には、全体で65%以上の得点を得ることなど合格基準が設定されています。
合格率に関係する要因としては、①国家試験が難しくなった②受験者のレベルが低くなった
という2つが考えられます。
薬剤師の需要が今後先細りすると見通し、輩出する薬剤師の数を抑えるために、
国家試験の内容を意図的に難しくしたという見方もあるでしょう。
基本的に国家試験の難易度は毎年、同じレベルに設定されているはずですから、
そんな操作が可能かどうかよく分かりません。
むしろ考えやすいのは、単純に国家試験受験者のレベルが前年に比べて低下したという要因です。
ちょうど受験したのは、薬学教育6年制の第3期生に該当します。
薬学部の人気が低下し、各大学が定員割れに苦しむ中で、入学してきた学生です。
そのレベルはいかほどだったのでしょうか。
このように大学受験と国家試験の現状を踏まえて感じるのは、
いいサイクルを形作り、それを持続させることがいかに重要か、ということです。
薬剤師が社会から高い評価を得ることによって、
薬学部に入学したいと希望する高校生が増えれば、
大学はレベルの高い学生を確保できます。
その結果、質の高い薬剤師を社会に輩出できるようになり、
その薬剤師がさらに活躍し、評価を獲得すれば、
薬学部の人気はもっと高まります。
この逆の悪いサイクルも当然、成り立ちます。
薬剤師が社会から高く評価されなくなれば、
薬学部はレベルの低い学生しか集められなくなります。
その結果、輩出される薬剤師の質も低くなり、
薬剤師は社会から評価されなくなって、
薬学部の人気がさらに低下するというサイクルです。
いいサイクルを回していくにはやはり、
既に社会に出て働いている薬剤師が様々な場面で活躍し、
実績を構築して、高い評価を獲得していくことが重要です。
薬学部受験者数の増減や、薬剤師国家試験合格率の高低は、
大学の責任だけではありません。
社会に出ている薬剤師が、その責任の一端を担っていることを強く自覚するべきでしょう。