薬剤師を楽しもう!

"主治医機能"を考える

来春の診療報酬改定に向けて、今月上旬の中央社会保険医療協議会の総会で
"主治医機能"の強化が提案されました。
中小病院や診療所を対象に、主治医の要件を満たした場合、
新たな診療報酬を導入することが、視野にあるようです。
今後、どのように議論が展開されていくのか、よく分かりませんが、
薬局薬剤師にも中長期的な影響があるかもしれませんので、注意が必要です。

それでは、具体的にどのような影響が考えられるのでしょうか。

ひとつ目のポイントは、患者の受診行動が変化する可能性があるということです。
地域の基幹病院に集中している外来患者を、なるべく中小病院や診療所に誘導したいと
厚生労働省は考えているようです。

中医協の資料では主治医機能について
『外来の機能分化の更なる推進の観点から、診療所や中小病院の主治医機能を持った医師が、
複数の慢性疾患を有する患者に対し、適切な専門医療機関等と連携することにより、
継続的かつ全人的な医療を行う』
と説明されています。

魅力的な診療報酬が新設されれば、中小病院や診療所は主治医機能の要件を整備するでしょう。
それに伴って、基幹病院からこれらの医療機関に患者が流れる傾向が強まるかもしれません。

この動きと関連して以前には、基幹病院に紹介状を持たずに受診する場合には、
1万円以上の定額負担を患者に求めることを厚労省が検討するとの報道もありました。

これらの影響によって患者の受診行動が変化すれば、
基幹病院の前にある門前薬局では院外処方箋の応需枚数が減り、
地域の薬局では増える可能性があります。

ふたつ目のポイントは、主治医機能の強化に伴って、
医薬分業の意義が改めて問われかねないということです。

主治医機能とは具体的に、
▽服薬管理▽検診等の受診勧奨▽健康管理や健康相談
▽介護保険制度の理解と連携▽在宅医療の提供や24時間対応
――などが要件として示されています。

要件の一つである「服薬管理」について資料には
『服薬管理のためには、主治医機能を担う医療機関が、
患者が通院している医療機関をすべて把握するとともに、
処方されている医薬品を全て管理することが重要であると考えられる。
そのため、診療所や中小病院においても、院内処方等により、
医師自ら又は配置されている薬剤師等が、
一元的な服薬管理を行う体制が重要と考えられる』
と記載されています。

一元的な服薬管理は、医薬分業のメリットの一つであったはずです。
かかりつけ薬局が複数の院外処方箋を応需することによって一元的な服薬管理が実現し、
重複投与や相互作用のチェックが可能になると聞かされてきました。
患者が自由に複数の医療機関で診療を受けても、医薬分業の仕組みによって、
一元的な服薬管理は保証されるという仕組みだったはずです。

資料に記載された文面を見ると、主治医あるいはその医療機関の薬剤師が
一元的な服薬管理を行う体制が重要とされています。

患者が自由に医療機関を選んで受診できるフリーアクセスが、日本の医療保険制度の特徴の一つです。
主治医機能の強化には、フリーアクセスを維持しながらも、
可能な範囲で患者の受診行動を制限するような要素も加えたいとの意図が感じられます。

考えてみるとフリーアクセスと医薬分業はセットだったのかもしれません。
フリーアクセスを上手く機能させるために、情報を一元的に集約する医薬分業は役立ちます。
フリーアクセスを制限し、患者をひとつの医療機関に集約して、そこが司令塔として機能すれば、
医薬分業の意義は無くなりはしないものの、薄らいでしまいかねません。

いずれにしても、患者の処方情報の一元化は必要なことですし、
処方情報だけでなく医療情報の一元化も求められます。
医療体制が変化する中で、主治医機能の強化は、
情報の一元化を誰が担うべきかという根源的な問題を、改めて浮上させたとも考えられます。
マンツーマン主体の現在の医薬分業において、
薬局における情報の一元化が実現しているのかという問いかけにも成り得ます。

とはいえ、将来は、情報の一元化を誰が担うべきかという問いかけは無意味になるでしょう。
中長期的には、インターネットデータセンターを連携して
医療情報の電子的な一元化が実現すると見込まれます。
情報の一元化はコンピュータが担います。
誰が情報を一元化するかではなく、一元化された情報をどう活用するかに関心は移るでしょう。
そこまで視野に入れた上で、医薬分業のあり方、薬剤師の職能を考えていくべきではないでしょうか。

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