薬剤師を楽しもう!

報われぬ愛

 一般用医薬品のネット販売に関する議論が、ほぼ決着しました。

 厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」
で議論が続けられてきました。
 最終的には、ネット販売推進派と慎重派の主張をすり合わせるまでに至らず、
両論併記という形で検討会は5月に終了。
政治決着に持ち込まれ、安倍首相が発表した成長戦略第3弾に、目玉の一つとして
ネット販売の全面解禁が盛り込まれました。

 この一連の経緯を日本薬剤師会の"政治力"という観点から考えてみます。

 日本薬剤師会はいわゆる職能団体で、政治活動は行えません。
そこで日本薬剤師会の政治活動を担う日本薬剤師連盟という組織が形作られています。
 全国の薬剤師から集めた資金をもとに、推薦する候補者が国会議員に当選できるように
投票を呼びかけたり、当選した国会議員を通じて政権に働きかけたり、
献金を行ったりするなど、様々な政治活動を展開しています。
日本医師会、日本看護協会などにも同じような政治組織があります。

 これまで、「薬剤師の権利を守り、意見を通すには政治力が重要だ」と
耳にタコができるほど、あちこちで聞かされてきました。
衆議院選挙や参議院選挙のシーズンになると、各地の薬剤師会の総会後に、
薬剤師連盟が推薦する自民党候補者が登壇し、投票を呼びかける光景がよく見られました。

 このように育まれてきた日本薬剤師会の"政治力"ですが、
今回のネット販売をめぐる議論においては有効に機能しなかったように思えます。

 過去を振り返ってみれば、日本薬剤師会は一途に自民党を支持してきました。
2009年の衆議院選挙で民主党が歴史的な勝利を収め、
自民党が政権与党の座から転落した時もそうです。
日本医師会が民主党への歩み寄りを強める中、日本薬剤師会は民主党に鞍替えすることなく、
自民党への支持を貫き通しました。

 当時、その戦略を疑問に思ったものですが、自民党が再び政権与党に返り咲いたことを考えると、
日本薬剤師会の戦略はそれほど間違っていた訳でもありません。

 愚直に自民党を支持し続けてきた日本薬剤師会は、今回、その見返りを期待したはずです。
しかし、ネット販売の一件では、自民党の中に異論はあったものの、
結果的にはネット販売を全面解禁するという方向になりました。
愛を貫きとおしても、それが報われるとは限らない。
それが今回の一件ではっきりしました。

 とはいえ、「どうせ報われないのなら政治力は不要だ」と言いたいのではありません。
おそらく政治の世界とはこんなものなのでしょう。
 来春には薬剤師にとって重要な調剤報酬の改定が控えています。
日本薬剤師連盟は、夏の参議院選挙に自民党から出馬する候補者を支援することを決めています。
ネット販売の一件があったとはいえ、再び愚直に支援することになるのでしょう。
他に選択肢もないことですし。

 政治力の重要性はこの先もずっと変わりませんが、意識したいのは、
政治力のみに頼る一本足打法ではいけないということです。

 国会議員を使って働きかけるだけではなく、薬剤師の業務や役割について国民全体の支持を得ることが必要です。
実際に行動した上で、薬剤師がどれだけ社会の役に立っているのか、
数値など目に見える形で示さなければいけません。
それを怠ってきたツケがまわってきた。

今回の一件は、そう捉えることもできるのではないでしょうか。

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