薬剤師を楽しもう!

疑義照会への応答義務は?

 ある学会で演壇に立った医師の言葉が興味深かったので
、今回はそれを紹介します。
 その医師は講演の終盤に、余談として疑義照会について
次のように述べました。

「疑義照会という言葉をちゃんと知っている医師はあまり
多くない。疑義照会をどのように漢字で書くのか知らない
医師もいる。疑義照会は薬剤師法に記載されているが、医
師法には薬剤師からの疑義照会に応えるべきだとは一言も
書いていない。医師は臨床現場に出て初めて、疑義照会を
経験する。薬剤師から電話がかかってきていろいろと聞か
れ、後になって、あれが疑義照会だったのかと思う。薬剤
師との協力の仕方について医学教育の中でもっと考えてい
く必要がある」

 この言葉を聞いて驚きました。薬剤師の業界では、疑義
紹介は当然の業務として認識されていますが、医師の業界
ではどうやらそうではないようです。

 薬剤師法の第二十四条では「薬剤師は、処方せん中に疑
わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯
科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確か
めた後でなければ、これによって調剤してはならない」と
されています。

 調べてみたところ、医師法には確かに、薬剤師の疑義紹
介に対する応答義務は記載されていないようです。
 法律ではなく、保険医療機関及び保険医療養担当規則の
第二十三条2に「保険医は、その交付した処方せんに関し
、保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、これに適
切に対応しなければならない」と記載されているだけです
。法的には、疑義照会への応答義務は明記されていません

 医師と薬剤師の疑義照会をめぐる意識の違いはよく耳に
します。薬剤師は、疑義を確かめなければ調剤してはいけ
ないと法律に記載されてますから、気を使いながら医師に
問い合わせを行います。
 一方、疑義照会に応えなければならないという意識が希
薄な医師にとっては、忙しい診療の最中にかかってくる薬
剤師からの電話は、疑義照会の内容によっては迷惑なもの
となるでしょう。

 どうすればこの意識のギャップを改善できるのでしょう
か。調べたところ、新薬学研究者技術者集団が昨年7月に
、当時の厚生労働大臣に対して疑義照会に関する要望書を
提出していることが分かりました。
 「医師法に記載のない『疑義照会』は医学生に教えられ
ず、このことが卒業して医師となり薬剤師から『疑義照会
』の問い合わせがあった際に、スムーズに対応されないこ
とにつながっている」として、療担規則に記載された疑義
照会への応答義務を、医師法に明記するよう求めたもので
す。

 冒頭の医師の発言でも指摘されたように、法律で疑義照
会への応答義務が明文化され、また、明文化されなかった
としても、医学教育の中でその教育が行われることが一つ
の理想です。
 近年は医学教育の中でチーム医療教育が充実してきまし
たから、その一環として、疑義照会を含めた薬剤師との協
力関係について医師の卵に教育するよう求めていくことは
有効な戦略です。

 一方、このような外的圧力だけに頼るのではなく、医師
の自発的な意思によって疑義照会に快く応じてもらえるよ
うに、臨床現場の薬剤師は努力すべきでしょう。
 疑義照会こそが医薬分業の核心です。薬剤師の疑義照会
の意味が十分に理解されていないということはすなわち、
医薬分業の意義についても医師から十分な理解が得られて
いない、とも考えられます。疑義照会を巡る問題の本質は
ここにあるように思えてなりません。

 「薬剤師からの疑義照会があって助かった」「気付いて
いなかったことを薬剤師にフォローしてもらえた」と医師
に実感してもらえるような疑義照会を、薬剤師が実践し続
けていくことが、地味ですが最も重要なのではないでしょ
うか。
 医師にそう思ってもらえるような疑義照会を行うには、
単純なミスの発見だけでなく、患者さんから情報を引き出
したり、薬学的な見地から薬物療法を評価したりするなど
、十分な知識やスキルが薬剤師に必要になります。
 それを備えてこそ、より良い薬物療法を構築するパート
ナーとして薬剤師が医師から信頼され、巡り巡って医薬分
業バッシングに対する防波堤になると考えますが、いかが
でしょうか。

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