薬剤師を楽しもう!

フルオロキノロン系薬剤と網膜剥離

先週、JAMAという米国医師会雑誌にフルオロキノロン系薬剤と網膜剥離を関連づける研究の結果が発表されていました。

http://jama.ama-assn.org/content/307/13/1414.abstract

これはコホート内症例対照研究と呼ばれるやりかたで、カナダのブリティッシュコロンビア州で200年1月から2007年12月までに眼科を訪れた患者さんの集団(コホート)から網膜剥離の患者さんと、経口フルオロキノロン系薬剤との間に関連がないか?を網膜剥離を起こしている最中にフルオロキノロンを使用している群、その少し前に使用していた群、過去に使用した群にわけて調べたものです。
989591名の眼科受診対象者のうち、4384名の網膜剥離患者に43840名の網膜剥離でない人を対照としてフルオロキノロン系の服用有無を調べています。

現在フルオロキノロンを使用している群は使用していない群にくらべて網膜剥離のリスクが高く、(3.3% VS 0.6%) 比で4.5倍使用群の方が高いという結果がでました。
これは年間で1万人に4名が起こす可能性があります。フルオロキノロン系薬剤を服用した2500名のうち1名が網膜剥離を起こすかもしれない程度です。
ただし、最近使用群、過去使用群に関しては差がありませんでした。またβラクタム系薬剤と網膜剥離の間いは差が見られませんでした。

2500名のフルオロキノロン系薬剤服用者がいたとすると、そのうちの1名が網膜剥離を起こすかもしれない・・。決して多い数ではありません。網膜剥離自体がごく稀な疾患であるためそのリスクを4.5倍にするから2500名分の1という数になります。それでも4.5倍というのは関連性が強く示唆される。と言わざるを得ないでしょう。

こういう研究発表は少し不安になりますね。
なにせ網膜剥離とは思いもかけない副作用報告になるからです。しかもごく稀な疾患であるため、通常1名1名を見ていてもわからない。なにせ2500名のキノロン系薬剤服用者をみないと発見できない。関連性に気が付かないでしょう。こういう調査して初めて分かる類のものです。

しかし、キノロン系薬剤の有名で注意すべき副作用といえば、横紋筋融解症があります。これは骨格筋の細胞が壊死を起こして破れるので筋細胞中の成分が血液中に浸出することで起こる症例です。今回のケースは網膜剥離ですが、やはり網膜という細胞が何らかの原因で破れて起こる病気です。
全くの関連性がない・・とは言い切れないのですね。

医療って、患者さんをトータルにリスク要因を考えて上から視点で見ることと、細胞や化学構造を細かい視点で見つめることの両方が必要なんですね。

前の記事 : サービスからホスピタリティへ
次の記事 : 境界値は複雑