薬剤師を楽しもう!

常識を疑おう

糖尿病。みなさんよくご存知の病気のひとつです。

糖尿病は、血糖値が病的に高い状態をさす病名です。高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると血中のブドウ糖が血管内皮のタンパク質と結合し、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、目、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な傷害を及ぼす可能性があり、糖尿病治療の主な目的はそれら合併症を防ぐことにある。糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害によって生じるものは、糖尿病の三大合併症といわれる。(Wikipedia抜粋)
検査の値としては空腹時血糖(mg/dl) 126以上、 HbA1c(%)6.5%以上(JDS値では6.1%以上)などが目安となります。

病気としては当たり前・・の知識ですよね。

さて、先日参加してきたワークショップで読んだ文献は以下のものでした。
Effect of intensive glucose lowering treatment on all cause mortality, cardiovascular death, and microvascular events in type 2 diabetes: meta-analysis of randomised controlled trials
Rémy Boussageon
BMJ 2011;343:d4169 doi: 10.1136/bmj.d4169
http://www.bmj.com/content/343/bmj.d4169.full.pdf

システマティックレビューという種類の文献で、ある調べたいことの出来るだけすべての論文を集めて統合して検討した、その結果を示した文献です。
この文献のテーマ、調べたかったことは、「Effect of intensive glucose lowering treatment on all cause mortality, cardiovascular death, and microvascular events 」18歳以上の2型糖尿病の方に糖尿病強化療法を行うと行わないことに比べて死亡率や心血管疾患での死亡、細小血管障害が減るのか?というものでした。
糖尿病強化療法とは、血糖をなるべく低く保つような治療のことです。

研究をしている時点で存在している147の論文から、質の良い論文を研究を13選び統合していきます。13の論文には34533名の患者さんが含まれています。1本の論文ではこうはいきません。
とはいえ、このような統合は自分勝手に行うわけにはいきません。それぞれの論文を統合しても問題ないのかどうかをしっかり吟味する必要はあります。

ともかく・・その結果です。
Intensive treatment did not significantly affect all cause mortality (risk ratio 1.04, 99% confidence interval 0.91 to 1.19) or cardiovascular death (1.11, 0.86 to 1.43).
強化療法を行うのが行わないのに比べて、有意に死亡率や心血管死亡をさげなかった。
Intensive therapy was, however, associated with reductions in the risk of non-fatal myocardial infarction (0.85, 0.74 to 0.96, P<0.001), and microalbuminuria (0.90, 0.85 to 0.96, P<0.001) but a more than twofold increase in the risk of severe hypoglycaemia (2.33, 21.62 to 3.36, p<0.001).
強化療法が有意に下げたのは「致死的でない心筋梗塞発症率、アルブミン尿発症率、」、「低血糖」を有意にあげた。
いや、そりゃあ低血糖はあがるでしょうけど・・。有意差があるのはそれだけ?

この結果に関しては、いろいろと考えることがあるでしょう。異論もあるかと思います。ほとんどの論文が欧米のもので人種差もあります。もちろん血糖が高いということは毒性があるのですから放置しておける問題ではありません。でもこのような臨床研究の結果が出ていることは確かなのです。血糖を今言われている程度に下げても死亡率は下がらず低血糖だけが起こりやすくなる・・・。

どうしましょうね。
ずっと食事、運動、治療とがんばってきた患者さんに、これからどう説明しようか。悩んでます。

今回のワークショップでわかったことは、患者さんに対するのに「確かなものは何もない」のだということです。今までの常識が常識になるとは限らないし、教科書やパンフレットが絶対にあっているという保証もありません。

私たちが行っていることは、正しいのか?本当に患者さんのためになるのか?
私たちにできることは、いまやっていること、常識を疑うことなのかもしれません。

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