薬剤師を楽しもう!

聞く技術

秋らしくなってまいりましたね。
ええっと、実は気候の挨拶ではないんです。

秋になると様々なジャンルの学術大会が多く開かれます。いろんな分野で活躍の方々とは2週間に1度はお会いすることもあるわけです。あら、また会いましたね。の後に、学会日和ですねえ、秋らしくなりましたね・・と続くわけですが・・・。

そんな私の周囲の方々のなかで今密かなブームが
「聞く技術」
という本です。
アメリカで出版され、現在日本でも翻訳本が出ていますが、一口では「問診」の本です。

問診というのは、ドクターの行うことじゃないの?という薬剤師は今ではもういませんよね。患者さんの状態に応じてOTCを選んでさしあげることも、現在の症状に応じて処方薬の説明を行うことも、すべて患者さんへの問いかけから始まります。つまりは、問診、今までの患者さんの状態を把握して、病歴を聞き取り、トリアージ、すなわちある症状に対して鑑別を行う。これは素敵な薬剤師の仕事のうちの一つですもの。

さて、この「聞く技術」という本ですが、疾患別ではなく症状別に構成されています。例えば「頭痛」という単元では、頭痛の病因、診療の開始、重篤な疾患の診断などが項目として示されています。その後、焦点を絞った質問、という項目があり、コンパクトな質問とその答えから考えられること、が表になって示されています。
例えば、質問で「こうした頭痛が起こり始めたのは何歳くらいのことでしたか?」とありますと、考えられることの項は「頭痛の罹患期間が長いほど、良性である可能性が高い。通常、片頭痛および緊張型頭痛は青年期に発症する。」とあります。大変簡単な質問から、様々な患者さんの病歴を得ることができるということです。

このような質問力をどうやって得られるのか?についても、この本は触れています。
面接の方法の話です。

まず、面接には「患者中心の面接」と「医師中心の面接」があり、その二つを統合すれば最適な医師ー患者関係を構築しながら、患者の話も十分入手できるとあります。
患者中心の面接、というのは、患者さんの訴えを明らかにしていくために行われます。「今日はどうされました?」とか「その痛みについて少し話してもらえませんか?」とか「それをどう感じましたか?」とか、患者さんの状態について、ご自分の言葉で語っていただくための面接のことです。
ところが問診はこれだけでは済まないのです。
次に「医師中心の面接」を行います。関連症状とその詳細な情報を得て、患者さんが今まで話していなかったその他の情報を入手して、判断の助けになります。
例えば「どこが痛みますか?痛みは10段階評価でいくつくらいですか?」とか「黒い便がでませんか?」とか。医療関係者だからこそわかる単語や考え方を使って患者さんに質問するわけです。

この本のすごいところは、この医療面接を「患者中心」と「医師中心」の二つに明確にわけようとしたところだと思います。よくお目にかかる「オープンクエスチョン」とかは実は患者中心の面接の技法の一つですね。これだけでは、医療面接は成り立たない。とこの本は伝えているわけです。そして、患者中心も医師中心も、何となくで面接が行えるわけではなく、「技術や訓練が必要」と教えてくれています。

なかなかうまく伝えることができないのですが、実際に服薬指導を行っている時に、「あ、今自分は患者中心だな」「今は、医師中心になってるな」ということを考えながら、自在に両方を行き来すると非常に指導がすっきりしてきます。また、今まで患者さんに尋ねなかったことを「医師中心」の私が尋ねると、患者さんからの情報を多く得ることができるようになりました。

英語の翻訳なのでちょっと読みにくい部分もありますが、少しスキルアップをしたいなあ、と思い立ち、自分の服薬指導を立ち止まって考えてみるにもとても良い本だと思います。

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