薬剤師を楽しもう!

新型インフルエンザについて考えてみよう

毎日のように新型インフルエンザH1N1の話題が新聞にのぼっていますね。
でも医療者たるもの新聞で情報を得て・・じゃあ、ちょっと情けない。
そう思っているところへ、アメリカの有名な医療雑誌「The New England Journal of Medicine」に新型インフルエンザの今までのまとめのようなものが掲載されました。

まずはまとめABSTRACTを紹介します。
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0903810

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ABSTRACT

Background On April 15 and April 17, 2009, novel swine-origin influenza A (H1N1) virus (S-OIV) was identified in specimens obtained from two epidemiologically unlinked patients in the United States. The same strain of the virus was identified in Mexico, Canada, and elsewhere. We describe 642 confirmed cases of human S-OIV infection identified from the rapidly evolving U.S. outbreak.

背景:2009年、4月15日から4月17日に新しい豚由来インフルエンザウィルス(H1N1)が、アメリカ合衆国で疫学的に関係ない2名の患者から得られた検体から特定された。同じ種はメキシコ・カナダその他でも特定された。我々は急速に感染が広がっている人感染と特定されたS-OIV(豚由来インフルエンザ)を解説する。

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疫学的に関係ない・・epidemiologically unlinked patientsとありますが、何となく地域が一緒じゃない、とか、一緒の部屋にいたのではないとか、まったく関係ないという意味なんでしょうね。

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Methods Enhanced surveillance was implemented in the United States for human infection with influenza A viruses that could not be subtyped. Specimens were sent to the Centers for Disease Control and Prevention for real-time reverse-transcriptase–polymerase-chain-reaction confirmatory testing for S-OIV.

方法:サブタイプの分からない人感染インフルエンザA型ウィルスに対する監視強化がアメリカ合衆国で実行された。検体はCDCに送られて、S-OIVかの確証試験をリアルタイムRT-PCRで行った。

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リアルタイムRT-PCRは、DNAやRNAを比較特定するのに使用する方法のようです。Real-Time RT-PCRの部分に、CDCがA,B,H1,H3,と鳥H5の分析をしていることが書いてあります。

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Results From April 15 through May 5, a total of 642 confirmed cases of S-OIV infection were identified in 41 states. The ages of patients ranged from 3 months to 81 years; 60% of patients were 18 years of age or younger. Of patients with available data, 18% had recently traveled to Mexico, and 16% were identified from school outbreaks of S-OIV infection. The most common presenting symptoms were fever (94% of patients), cough (92%), and sore throat (66%); 25% of patients had diarrhea, and 25% had vomiting. Of the 399 patients for whom hospitalization status was known, 36 (9%) required hospitalization. Of 22 hospitalized patients with available data, 12 had characteristics that conferred an increased risk of severe seasonal influenza, 11 had pneumonia, 8 required admission to an intensive care unit, 4 had respiratory failure, and 2 died. The S-OIV was determined to have a unique genome composition that had not been identified previously.

結果:4月15日から5月5日までに41の州で642名がS-OIV感染と確定された。年齢は3ヶ月から61歳まで。そのうち60%が18歳以下であった。有効データをもつ患者のうち、18%が最近メキシコへ渡航しており、16%は学校でのS-OIV発生によって確定された。もっとも一般的な症候は、熱(94%の患者)咳(92%)喉の痛み(66%)があった。25%の患者に下痢があり、25%の患者が嘔吐していた。
399名の患者のうち、36 名が入院を必要とした。有効データを持つ入院患者22名のうち12名がひどい季節性インフルエンザのリスク特性をもっていた。11名が肺炎、8名がICU に入った。4名が呼吸不全をおこし、2名が死亡した。S-OIVは今までに知られないゲノム構成を持っているものだった。

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症状として下痢・嘔吐の25%というのが目新しいですね。
この文献、ありがたいことにWebで全てを閲覧することができます。下の方のDemographic and Clinical Features にあるTable1を見てみると、内訳が詳しくのっています。
注意深く読むと、S-OIVと確定されたのは642名ですが、最近メキシコに渡航した人は、381名中の68名。熱が出た患者は、394名中の371名と書いてあります。本当に642名全部調べたというわけではないのです。確かにアブストラクトには「available data」とありますけれども、注意深く読まなければ見逃しがちです。その点こういうTableは妥当なデータをまとめてくれているので、こういった論文を読む時にはとても有効です。本当のことはアブストラクトだけを読んでいても判別がつかないことがあるのですね。
入院 :36/399 (9%)
レントゲン浸潤影 11/22 (50%)
ICU 8/22 (36%)
人口呼吸が必要な呼吸不全 4/22(18%)
タミフル服用 14/19(74%)
完全回復 18/22(82%)
2008ー2009年に通常型インフルエンザワクチン接種 3/19(16%)
死亡 2/36(6%)

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Conclusions A novel swine-origin influenza A virus was identified as the cause of outbreaks of febrile respiratory infection ranging from self-limited to severe illness. It is likely that the number of confirmed cases underestimates the number of cases that have occurred.

結論:新型豚由来インフルエンザA型ウィルスは、発熱、呼吸疾患を起こす感染の発生元の原因と同定された。それは確認された件数は実際に起こっている件数にくらべて過小評価されているかもしれない。

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アブストラクトの下にMethodsがありますが、ここに実際に3月30日、3月28日に感染が確認された患者2名のことがかかれています。(実際にはアメリカでの感染はこの程度早かったのです。)Figure1でみると、3月30日に報告のあがった患者からS-OIVが同定されたのが4月15日です。 CDCがS-OIVアウトブレイクに関する最初の記者会見をするのが4月23日です。


私たちはもちろんこの記者会見より前に事実を知ることはできません。しかし、幸いこうやって他国での過去の事例をまとめてあるものを読むことはできます。新型インフルエンザでの症状のうちわけ。下痢や嘔吐が25%であること。入院は9%であること。入院患者のうちの36%はかなり重症であったこと。完全回復が82%であること。いつものインフルエンザワクチンを16%は受けていたこと。いろいろな数字が何の意味を持っているのかを考えてみることができます。

そして、それを目の前の患者さんの訴えと比べることで、薬剤師、医療者としての返事が出きるでしょう。
こうやって医療情報を得て、考える。そしてその結果を患者さんに適応する。
そういう積み重ねが将来もしかしたら、目の前の患者さんを救うことになるかもしれませんね。

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