薬剤師を楽しもう!

運動ってどのくらいしたらいいの?

ずいぶん暖かくなってきた先日、メタボを気にしている高血圧の男性の患者さんが来局されました。

「いやー、お正月以来何だか太っちゃった気がしてね。今日は先生にも怒られたよ。体重も落ちてないしさ、ちょっと血糖値も高かったらしい。このままだとメタボリックシンドローム一直線だよってね。それで少しは運動でも始めようと思うんだけど。やっぱりジムに通わないと駄目なのかな?毎日忙しいからねえ。そんな暇があるとは思えないんだけど・・。」

確かに。私自身だって、ちょっとは運動しないといけないなあ〜。なんて考えますけど、なかなかフィットネスクラブに行く余裕がありません。自宅でできるエクササイズじゃ駄目なのかな?
まとめると
P:ちょっとメタボな高血圧の50代男性
E:フィットネスジムに通うのと
C:家でエクササイズするのと
O:どちらが効果があるか
効果といってもいろいろと考えられますが、患者さんの疑問に答えてあげられるか?をまず考えた方がいいでしょう。この患者さんなら血圧を下げるか、体重を落とすか、心臓血管の危険因子(コレステロール値とかですね)を下げるか・・。くらいが分かれば、患者さんの疑問に答えてあげられそうですね。


ちょっと調べてみました。

http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/281/4/327
Comparison of Lifestyle and Structured Interventions to Increase Physical Activity and Cardiorespiratory Fitness
ライフスタイルと運動の比較に関する論文をみつけました。ちょっと目を通してみましょう。


Comparison of Lifestyle and Structured Interventions to Increase Physical Activity and Cardiorespiratory Fitness
ライフスタイルと肉体的活動と心肺のフィットネス増加による構造的介入の比較

Context Even though the strong association between physical inactivity and ill health is well documented, 60% of the population is inadequately active or completely inactive. Traditional methods of prescribing exercise have not proven effective for increasing and maintaining a program of regular physical activity.
身体的不活動性と、病気には強い関連性があると文書化されているのに、人口の60%が不十分な活動または完全に活動しない。運動処方の伝統的な方法は定期的な運動プログラムの増加と維持の効果を証明されていない。
つまりはアメリカ人の60%が運動が足りてないということなんですね。


Objective
To compare the 24-month intervention effects of a lifestyle physical activity program with traditional structured exercise on improving physical activity, cardiorespiratory fitness, and cardiovascular disease risk factors.
期間は24ヶ月で、ライフスタイル方式と伝統的なエクササイズ方式を比較。
身体活動の増加、心肺機能の向上、心血管疾患の危険因子で評価する。

普段の医療論文ではあまりお目にかからない単語がいろいろでてきています。
lifestyle physical activity program =ライフスタイル方式とは日常の中等度身体活動を増加する方法・個人や小グループに他意する講義と自ら運動プログラムを作成し、実践そして自己管理を行うプログラムのことです。traditional structured exercise=エクササイズ方式はお馴染みのスポーツ施設などでの運動トレーニングの実践でやや高めの強度の身体活動をするプログラムのことです。
ライフスタイル云々だったので、普通に生活習慣を変えるのかな?と思ったら、ライフスタイル方式では健康づくりや身体活動の必要性について講義を行い、意欲の向上を図るのです。そのうえ、参加者が具体的な活動プログラムを作るようです。http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/55/2/55_229/_article/-char/jaこの「自分で」作るってのが結構ポイント高い気がしますね。


Design Randomized clinical trial conducted from August 1, 1993, through July 31, 1997.
研究デザインはランダム化比較試験です。

Participants
Sedentary men (n = 116) and women (n = 119) with self-reported physical activity of less than 36 and 34 kcal/kg per day, respectively.
あまり動かない男性116名女性119名が被験者です。あまり動かないという表現がデスクワークの普通のアメリカ人を想像してしまいますね。

Interventions Six months of intensive and 18 months of maintenance intervention on either a lifestyle physical activity or a traditional structured exercise program.
ライフスタイル群もエクササイズ群も6ヶ月きちんとしたプログラムをこなして、その後24ヶ月まで継続します。

Main Outcome Measures Primary outcomes were physical activity assessed by the 7-Day Physical Activity Recall and peak oxygen consumption (VO2peak) by a maximal exercise treadmill test. Secondary outcomes were plasma lipid and lipoprotein cholesterol concentrations, blood pressure, and body composition. All measures were obtained at baseline and at 6 and 24 months.
一次アウトカムは身体活動、評価された7day-Recallと最大強度のトレッドミルテストによる心肺機能測定。二次アウトカムは血漿中脂質とコレステロール濃度、血圧、体脂肪。すべての計測は6ヶ月と24ヶ月でベースラインを求める。
ここにも7-Day Physical Activity Recallとありますが、これも一般的な活動指標のようです。


Results Both the lifestyle and structured activity groups had significant and comparable improvements in physical activity and cardiorespiratory fitness from baseline to 24 months. Adjusted mean changes (95% confidence intervals [CIs]) were 0.84 (95% CI, 0.42-1.25 kcal/kg per day; P<.001) and 0.69 (95% CI, 0.25-1.12 kcal/kg day; P = .002) for activity, and 0.77 (95% CI, 0.18-1.36 mL/kg per minute; P = .01) and 1.34 (95% CI, 0.72-1.96 mL/kg per minute; P<.001) for VO2peak for the lifestyle and structured activity groups, respectively. There were significant and comparable reductions in systolic blood pressure (-3.63 [95% CI, -5.54 to -1.72 mm Hg; P<.001] and -3.26 [95% CI, -5.26 to -1.25 mm Hg; P = .002]) and diastolic blood pressure (-5.38 [95% CI, -6.90 to -3.86 mm Hg; P<.001] and -5.14 [95% CI, -6.73 to -3.54 mm Hg; P<.001) for the lifestyle and structured activity groups, respectively. Neither group significantly changed their weight (-0.05 [95% CI, -1.05 to 0.96 kg; P = .93] and 0.69 [95% CI, -0.37 to 1.74 kg; P = .20]), but each group significantly reduced their percentage of body fat (-2.39% [95% CI, -2.92% to -1.85%; P<.001] and -1.85% [95% CI, -2.41% to -1.28%; P<.001]) in the lifestyle and structured activity groups, respectively.
24ヶ月後の結果ですが、それぞれライフスタイル群とエクササイズ群で一日の消費カロリー数については0.84kcal/kgと0.69kcal/kg増加。心肺機能については0.77と1.34増加。血圧は収縮期で-3.63と-3.26。拡張期で-5.38と-5.14と下がっています。
しかし体重は-0.05kgと+0.69kgです。あまり変わりません。でも体脂肪は-2.39%と-1.85%と下がりました。
体重以外のP値は十分小さいので、ライフスタイル群でもエクササイズ群でも体重以外では効果があったと言っても良いでしょう。

Conclusions In previously sedentary healthy adults, a lifestyle physical activity intervention is as effective as a structured exercise program in improving physical activity, cardiorespiratory fitness, and blood pressure.
結果:デスクワーク中心の健康な成人がライフスタイル介入で活動性、心肺機能、血圧においてエクササイズと同じような効果が出る。

この同じような効果というのは、Resultsの数字を見ても、まあそうかな?と思いますが、もっと詳しくは本文内に結果をまとめた表(Table2)があります。そこに両者の比較をした際のP値がありますが、どれも有意差があるとは言えない値でした。


さて、アブストラクトだけ読んでみましたが、何だかフィットネスジムにいかなくても良さそうじゃないですか?自分でちょっと運動、くらいでなんとかなるってことー??

でも気になるのは、ライフスタイル方式の方法です。
これ、実はとても厳しいプレッシャーがかけられているようです。興味のある方は本文のIntervationの部分を読んでみてください。エクササイズ方式も結構きつい指導です。
この論文は、心理的に考えられた指導と(アメリカではこのような認知行動療法はよく研究されていますね。)普通の熱血指導の差があるかどうかをみようとした論文なのですね。

やっぱりダイエットって地道な努力しかないのかあ・・・。


http://wikiwiki.jp/nobukinkin/?RCT%A1%A1%C0%B8%B3%E8%BD%AC%B4%B7%A4%AB%A1%A2%A4%AC%A4%C3%A4%C4%A4%EA%B1%BF%C6%B0%A4%AB%A1%A9

今回の論文を読むにあたって参考にさせていただきました。私のEBMのお師匠でもあります。今回の論文も、もっと深く考察してあります。

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