薬剤師を楽しもう!

クレームのことを考えてみよう

数人の薬剤師が寄ると、よくこんな話題になりませんか。

「この間ね、患者さんから「薬の数が違う!」って怒られたんだよねえ。でも在庫数とか確認したらあってるのよ。」「あらまあ。」「でもその患者さんって、いつも数が違うって言うのよ。」「確認して渡してる?」「もちろんよ。前回も確認して渡したのよ。でもね、それを言うと「私はボケてなんかいないわよ!」ってまたクレームつけられるんだけどね。」「そういうクレームって・・結構あるよねー。困っちゃうんだよねえ。何かいい解決方法はないのかしらね。」


どこの薬局でも、問題になるクレーム対応。
そもそも、クレームってどんな時に起こるのでしょうか?


クレームとは英語では単に「要求」というだけのことなのですが、日本においては「苦情」や「文句」という否定的意味が強いかと思います。確かにクレームを出す患者さんは怒っています。そのため「苦情」「文句」と思いがちなのでしょう。

ではどんな時に患者さんは怒っているのか?
もちろん薬局側の落ち度の場合は多くあります。これには誠実に謝罪して和解するしかないでしょう。でも、先ほどの例のように、物質的に間違いのないものに対して怒っているケースもあるでしょう。人はなぜ怒るのでしょうか。
怒りは、欲求が満たされない場合における行動の一つです。多くの動物にでも見ることのできる精神活動といえるでしょう。しかし人間の怒りの活動は結構複雑です。怒りとは、感情の蓋であると言われています。怒りという感情の下に、悲しいとか寂しいという本当の感情が隠れているというのです。でもこれらの感情を相手に出すことが出来ない場合があるでしょう。そこで怒りという強い感情で蓋をしてしまう時があります。本当の感情を感じないように防衛してしまうわけです。寂しいとか悲しいとかをある人に対して出したいと、心の底が願っていても、それを出せない場合に、まったくの他人に対しての怒りで紛らわすというケースもあります。


またALL ABOUT JAPANで以前連載されていた「クレームの心理学」によると、人間は「物事をコントロールしている」という感覚を持つことが大変重要なのに、それを阻害されると「恐れ」や「不安」を感じて「怒り」という防御反応を示すのだとかかれています。コントロール感が得られている時ほど、自分に力があるように感じ、コントロール感が得られないときほど、自己嫌悪に陥るというのです。

この辺りから、人が「自分が、思うとおりにならないと怒りの感情を表す」ということが見えてくるでしょう。この思うとおりにならないとは、自分が努力してもどうしようもない、と感じる場合のことです。
その時に感じるのはどういった感情でしょうか。
努力してもどうしようもない→なにもできない無力感→自分がとても力のない者に感じる→打開しようとして行動を起こす
この行動が怒りとなることがあるわけです。

ではこの「怒り」をどうすればよいのでしょうか。
先の「クレームの心理学」では、「コントロール感をお客に取り戻してもらう」のが基本だと話しています。
具体的には、まず相手の話を聴く。聴かれることによって相手が「自分には力があって、きちんと取り扱われている感じ」を取り戻すことができるのです。この時に会話の主導権は相手にあります。つまりは話したいだけ話してもらうのです。そのうちに自分にコントロールが戻ってきたことを感じた相手は、自然と怒りを静めるわけです。最初は要求も無理難題を言っていた人も、コントロール感を取り戻せば、冷静になってくるものです。

とはいえ、実は「ただ聴く」ということは大変難しいのです。ただ聞くのではないのですから。相手に敬意をもって、相手のことを認めながら「聴く」のですから。
心理カウンセラーになるための勉強をする時、生徒同士で15分、ただ相手の言うことを頷いて聞きあうという実習があります。聴く方は頷きと合いの手だけしか入れることはできません。それで相手に15分、喋ってもらわなければならないのです。実際に行ってみると、ものすごく神経を使います。ただ聴くことだけに集中することは、慣れない人にはとても大変です。
しかし、我々は実は、聴くことのプロでもあるはずですよね。毎日、患者さんからの訴えを聴いているんですから。
最初から、「ああ、クレームだあ。いやだなあ。」と思わずに普段の仕事にプラスアルファ、ちょっとだけ余分に相手の訴えを聴いてみてはいかがでしょうか?もしかすると、その相手の本音をきくことが出来るかもしれませんよ。


ALL ABOUT JAPAN「クレームの心理学」
http://allabout.co.jp/career/careersales/closeup/CU20030316A/

前の記事 : 幸せについて考えてみよう
次の記事 : 糖尿病薬と骨折について考えてみた