薬剤師を楽しもう!

イチョウ葉は認知症の発生を抑えるのか?

先日は「医療論文を読んで、役に立てよう」というような会に参加してきました。
医師・薬剤師などが真剣に医療論文を読み、自分の患者さんに対してどうしたらいいのか?を真剣に考え、でも和やかに議論する。そういった会でした。論文なんてまだまだ読みこなすことが出来ないけど(私も含めてですが)、それを頑張ろう!自分の職場でも広めよう!という気概のある薬剤師にも多く会うことができて、とても有意義な一日でした。

さて、イチョウの話でしたっけね。
Ginkgo biloba for Prevention of Dementia
(イチョウは認知症を予防するのか)

http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/300/19/2253

この論文を見つけてきました。さてこれが私の患者さんの疑問に答えてくれるのかどうかをちょっと調べてみなければなりません。

まずは、この論文が「どんな患者さんが、どんな治療をすることによって、別の治療と比べて、どうなるのか?」と書いてあるのかを確認しないといけませんね。

ほとんどの論文には最初にABSTRACT(要約)と言われるものがついています。これを読むだけでも大体の論文の概要が分かります。

この「イチョウ」の論文で大切な単語は以下のものです。
Ginkgo biloba イチョウ葉
dementia 認知症
Alzheimer disease (AD) アルツハイマー病
mild cognitive impairment (MCI) 軽度認知障害
vascular disease 血管障害

これに論文を読む時に必ず出てくる単語
Randomized ランダム化
double-blind 二重盲検
placebo プラセボ
Outcome アウトカム(結果)
hazard ratio ハザード比
confidence interval[CI] 信頼区間
P P値

さて、ちょっと英語を訳してみましょう。
使うのは・・・インターネットです。
http://tool.nifty.com/globalgate/
http://honyaku.yahoo.co.jp/transtext
@niftyやYahoo!のテキスト翻訳です。ちょっと使ってみましょう。
論文をウェブ上で読んでみましょう。最初のところです。選択してコピーしたら翻訳サイトに行ってペーストして、翻訳ボタンをポチッとすれば日本語訳が出てきます。

[Context] Ginkgo biloba is widely used for its potential effects on memory and cognition. To date, adequately powered clinical trials testing the effect of G biloba on dementia incidence are lacking.
            ↓
イチョウ葉は、記憶と認識に対するその潜在的影響のために広く使われています。現在まで、痴呆発生率の上でイチョウ葉の影響をテストしている十分にパワード臨床試験は、不足しています

ちょっとわかりやすく直しましょうか。

[背景]イチョウ葉は記憶と認識に対して効果があるということで広く使われいます。が、現在までに認知症発生率の上でイチョウ葉の効果を的確に試験してる論文は少ないです。


今はいい時代です。Yahoo!などのテキスト翻訳はコピー&ペーストするだけで簡単に大体の訳をつけてくれます。


[Objective] To determine effectiveness of G biloba vs placebo in reducing the incidence of all-cause dementia and Alzheimer disease (AD) in elderly individuals with normal cognition and those with mild cognitive impairment (MCI).

[目的]正常な認識を持った初老の個人の中の全原因痴呆およびアルツハイマー病(AD)の発生率を縮小し、軽度認識障害(MCI)を備えたもの際にイチョウ葉対プラセボの有効性を決定すること。

いいたいことは何となくわかりますよね。イチョウ葉とプラセボを正常認識の初老の人に与えて、どちらが認知症になりやすいか、どちらがアルツハイマー病になりやすいかを比べるのが目的だということでしょう。

[Design, Setting, and Participants] Randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial conducted in 5 academic medical centers in the United States between 2000 and 2008 with a median follow-up of 6.1 years. Three thousand sixty-nine community volunteers aged 75 years or older with normal cognition (n = 2587) or MCI (n = 482) at study entry were assessed every 6 months for incident dementia.

[デザイン・セッティング・参加者]無作為化されて、二重盲検のプラセボ対照の臨床試験は、6.1年の中央値のフォローアップで2000年と2008の間に、アメリカの5つの学術的な医療センターで導きました。75歳以上の3069人のコミュニティー・ボランティア、あるいは研究エントリーでの正常な認識 (n=2587)あるいはMCI(n=482)で、6か月ごとに痴呆のために評価されました。

これも先に単語としてあげた、Randomized, double-blindが出てきます。

無作為化=randomizedですが、これがされている方が研究として信頼できるものになると言われています。もしもイチョウ葉の方に60歳以上の方、プラセボに90歳以上の方というように偏ってしまっては結果が偏るかもしれません。

二重盲検=double-blindですね。blindもしくはmaskingとよくかかれています。イチョウ葉を服用しているのか、プラセボを服用しているのか、服用者本人にも、服用をさせる医師などにも分からないようにしている時、盲検(マスキング)といいます。他にこの研究の評価をしている人(今回ならば、認知症になっているかどうかを最終的に判断する人)やデータ解析する人もあるデータがどういう人のものか、イチョウ葉を服用した人なのかプラセボを服用した人なのかを分からなくしてあるかどうかも読み手は検証した方がいいでしょう。

ここには、2000年から2008年の間に、アメリカの5つの医療センターから75歳以上3069名のボランティアによる被験者が研究にエントリーされ、内訳は正常認識の方が2587名、軽度認知障害の方が482名。彼らは無作為化され二重盲検でイチョウ葉群とプラセボ群に分けられて、平均(中央値)6.1年の間、6ヶ月ごとに認知症かどうかの検査をうけた。ということがかかれています。


[Intervention] Twice-daily dose of 120-mg extract of G biloba (n = 1545) or placebo (n = 1524).

[介入]これは翻訳がなくても分かるでしょう。1日2回、1回120mgのイチョウ葉エキス1545名かプラセボ1524名

[Main Outcome Measures] Incident dementia and AD determined by expert panel consensus.

[主要結果基準]専門家パネル一致によって決定された付帯的な認知症及びアルツハイマー病

専門家パネルって何のことか分からないんですけど、まあ専門家集団とかそういう意味なんでしょうね。とにかく認知症かどうか、アルツハイマーなのかどうかを専門家集団が評価してくれた。ということでしょう


[Results] Five hundred twenty-three individuals developed dementia (246 receiving placebo and 277 receiving G biloba) with 92% of the dementia cases classified as possible or probable AD, or AD with evidence of vascular disease of the brain. Rates of dropout and loss to follow-up were low (6.3%), and the adverse effect profiles were similar for both groups. The overall dementia rate was 3.3 per 100 person-years in participants assigned to G biloba and 2.9 per 100 person-years in the placebo group. The hazard ratio (HR) for G biloba compared with placebo for all-cause dementia was 1.12 (95% confidence interval [CI], 0.94-1.33; P = .21) and for AD, 1.16 (95% CI, 0.97-1.39; P = .11). G biloba also had no effect on the rate of progression to dementia in participants with MCI (HR, 1.13; 95% CI, 0.85-1.50; P = .39).

いよいよ結果です。

523 人が、認知症になりました(246の偽薬および277のイチョウ葉)、そのうちの92%がADまたは脳血管障害によるADでした。脱落者およびフォローアップ時損失の割合は低かった(6.3%)。また、悪影響プロフィールは両方のグループの場合類似していました。全面的な認知症割合は、イチョウ葉に割り当てられた参加者の中の100の人当たり3.3人、およびプラセボ群中の100の人あたり2.9人でした。全原因認知症で偽薬に対するイチョウ葉のためのハザード比(HR)は、1.12(95%の信頼区間[CI;]、0.94-1.33; P=.21)およびAD、1.16(95%のCI、0.97-1.39; P=.11)のためにでした。G bilobaは、さらに、MCI(HR、1.13; 95%のCI、0.85-1.50; P=.39)の中で認知症に進行の割合に差がありませんでした。

さて、何のことか分かるような、分からないような・・かなり言葉を抜いてみましょう。

初めの3069名から認知症と診断されたのはプラセボ群246名、イチョウ葉群277名だった。研究の途中での何らかの原因で最後まで行えなかった人の割合は低かった(6.3%)有害事象はイチョウ葉、プラセボともに同じくらいだった。認知症になる比率はイチョウ葉対プラセボで1.12(信頼区間95% 0.94-1.33、P値=0.21)ADになる比率は1.16(信頼区間95%、0.97-1.39; P=.11)軽度認知障害から認知症になる比率は1.13(信頼区間95%、0.85-1.50; P=.39)


ハザード比(もしくはRR相対リスクと書いてあります。)は何かやった方と別のことをやった方(もしくはやらなかった方)の発生率のどちらが高かったか?を割合でみたものです。この場合、イチョウ葉を服用した方がしなかった(プラセボを服用した)方より1.12倍認知症になる率が高かったということです!!


え!?

何もしない方がいいの?


それを考えるのは実は早計です。

今回参加してくれた3064名の方が何もしなくても認知症になるかもしれないし、ならないかもしれない。それは自然とそうなったのかもしれないですよね。そこでP値というものがかかれています。

P 値とは両方の群(この場合イチョウ葉とプラセボ)の効果が同等だとしたときに、偶然効果に違いがあるという結果がでる確率のことです。たとえば P<0.01だとすると試験を100回行っても1回未満しか偶然には結果は出ないということを意味しています。一般的に医療論文で両群に差がある、つまり有意差があるという値は「P<0.05」とされています。試験を20回おこなっても、偶然には1回未満しかありえない。この結果のP値はみな 0.05を超えています。つまりは先の結果、プラセボの方がイチョウ葉より認知症の発生を抑えるというのはは偶然であったかもしれない。ということです。


このように論文のあちこちに、臨床試験の結果が本物なのか?偶然ではないのか?バイアスがかかっていて結果の偏りがないのか?が書かれています。それらの単語を一つ一つ覚えて身につけることによって、この論文が正しいのか、そして私の患者さんに当てはめられるものなのかを見ていくのです。


[Conclusions] In this study, G biloba at 120 mg twice a day was not effective in reducing either the overall incidence rate of dementia or AD incidence in elderly individuals with normal cognition or those with MCI.
もう分かりますよね。結果です。

さて、たった1ページですが、これでも大体この論文が誰のためにかかれたのか、が分かってきたと思います。

どんな患者さん?ー75歳以上の普通か軽度認知障害の患者さん
どんな治療をすることによってーイチョウ葉エキスを1日240mg服用することによって
別の治療と比べてープラセボを服用するのと比べて
どうなったのか?ー認知症の発症を抑えることはできなかった

前回のPECOを覚えてますか?患者さんの疑問をまとめてみましたよね。
Pは「脳梗塞を患ったことのある抗血栓薬を服用中の70才男性が」
Eは「イチョウエキスを服用するのは」
Cは「しないのに比べて」
Oは「認知症を予防できるか」

どうでしょう?すこーし違いますよね。
この二つを同じとみますか?違うと考えますか?
そして次にこの患者さんに会った時、「イチョウ葉エキスってどうだった?」と聞かれたら、どう返答しますか?

もちろん、イチョウエキス240mgって何で決めたの?とか75歳以上とあるけど、他に除外する患者さんはいなかったの?例えば抗血栓薬を服用している人は関係ないとか?集まった人は本当に人種や病歴に差がなかったの?とか、そういう疑問もあると思います。
これらはもしかしたら論文の中に記載されているかもしれないです。もしも先の質問、患者さんにどう返答しますか?に詰まるようでしたら、もう少し中身を読んでみるのもいいかもしれませんね。

でも、なかなかこういった事を一人で覚えて、一人で行っていくのは大変です。モチベーションも続かないでしょう。ですので、勉強会に参加することをお勧めします。各地でいろいろな会が催されているでしょう。私も本当に素人から参加して(今でもオロオロしてますが・・)ますが、毎回勉強会に行く度に、新たなモチベーションを得て帰ってきます。もっと私の患者さんの役に立つ情報を得なくちゃ!って。
だって、私のことを頼りにして来てくれる患者さんなんですもの。

文献を読むのに、EBMの手法を使うと実はとてもわかりやすいです。前回お勧めした南郷先生のサイトにはそういった手法に関する資料が満載です。
http://spell.umin.jp/

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