薬剤師を楽しもう!

患者さんの疑問に答えてみよう

ある日、以前脳梗塞を患って抗血栓薬を服薬中の70才男性患者さんが来局しました。
「Oさん、今日も薬出てますね。ずいぶん寒くなってきたけどお変わりない?」
「ああ、あの病気をしたころに比べると、ずいぶんよくなったなー。と思うんだけどね。やっぱり一度大きな病気をすると、あれだな。心配になるな。」
「うんうん。そりゃそうですよね。」
「やっぱり、ほら、頭のボケが心配なんだ。まあ、年なのかもしれんけど。家内が「イチョウ葉がいいらしい。」って聞いてきたんだが、どうなんだろう?薬剤師さんからみて、どう思う?」
「えーー、どうなんでしょうね。次来られた時までに調べておきますね。」


さて、どうやって調べましょうか。


まずインターネットでは有名なGoogleで検索してみました。「イチョウ葉」
厚生労働省の「健康食品」のページに行き当たりました。イチョウ葉エキスの有効性および安全性として書いてあります。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/4e-1.html

イチョウ葉エキスは、イチョウの葉を乾燥させ、アルコールまたはアセトンを用いてフラボノイドやテルペノイド等の有効成分を抽出したものです。イチョウ葉エキスは、特に脳血管循環の改善効果を有するという報告がある。痴呆症の改善にも一定の効果をみせているようです。・・・でもこの資料、一番新しいものでも2002年の論文です。6年も前のものってどうなんでしょう?


せっかく世はインターネット時代。世界中の情報をアクセスできる時代です。厚生労働省などに頼っていないで、自分の手で新しい情報を見つけてみよう!

論文探すなら、ここでしょ。と教えてもらったPubMedにアクセスします。
PubMedとは、米国国立生物工学情報センター(NCBI : National Center for Biotechnology Information)が一般公開している医学関係文献データベースです。世界最大の医学文献データベースMEDLINEの全文献も含まれています。つまりはおおよその世界の医学文献はここを探せばあるでしょう。という場所です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/

そこで、イチョウ「Ginkgo」認知症「Dementia」論文の種類「randomized controlled trial」
を合わせて検索します。最後のRandomized Controlled traialは質の高そうな論文を見つけるおまじないみたいなものだと・・(今は)思っておいてください。

・・・・・・
67件ありました。うちの一番新しそうな一番上にきた論文を読んでみます。
Ginkgo biloba for Prevention of Dementia
(イチョウは認知症を予防するのか)

http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/300/19/2253
2008年11月のJAMAという雑誌に掲載されたものです。新しい!でも、新しいからいいというものではありません。この論文が正しく結果が導き出せているのか?ちゃんと私の患者さんに沿っているのか?を見なければなりません。


さてEBMの手順として、次の5つのstepが提唱されています。

* Step 1 目の前の患者についての問題の定式化
* Step 2 定式化した問題を解決する情報の検索
* Step 3 検索して得られた情報の批判的吟味
* Step 4 批判的吟味した情報の患者への適用
* Step 5 上記1〜4のstepの評価

Step1:目の前の患者についての問題の定式化
例えば治療法に関する疑問の場合、

患者(Patient):どんな患者さんが
検討すべき介入(Exposure/Intervention):どんな治療をするのは
比較すべき選択肢(Comparison):別の治療と比べて
目的とする結果(Outcome):どうなるのか

を定義することからはじめます。これらは4つの頭文字をとってPECOと呼ばれますが、まずこのようにして自分の患者さんに起こった問題を整理することで、これから扱う問題をはっきりさせます。

今回の場合の
Pは「脳梗塞を患ったことのある抗血栓薬を服用中の70才男性が」
Eは「イチョウエキスを服用するのは」
Cは「しないのに比べて」
Oは「認知症を予防できるか」
という感じで患者さんからの質問を整理することができます。

Step2:定式化した問題を解決する情報の検索

Step1で定式化・整理された疑問を解決すると思われる情報を収集します。
インターネットはもちろんのこと、友人の薬剤師に聞いたり、MRさんからの情報収集研修会でもいいでしょう。
先ほどのPubMedはインターネット上で論文を探すときにはよく使われるサイトの一つです。もちろんわざわざ英語で探さなくても、インターネット検索をかければ日本語の訳をしてくれているサイトを探せる時もあります。

Step3:検索して得られた情報の批判的吟味

Step2で得られた情報が本当に正しいものかどうかを評価します。
ここで問題なのは「統計上有意差が出ました」という論文であっても、すぐに結果を信じることは、本当はできないということです。本当に正しい手法で、妥当な研究がなされているのか?を評価しないとなりません。また、手法が正しくても、結果が妥当なのかどうかも吟味しないとなりません。このステップが一番技術を要するところかもしれません。

Step4:批判的吟味した情報の患者への適用

ここが実は一番重要なステップです。
論文がみつかりました。吟味も行いました。「やったーー。できたー。」それで終わりではありません。最初に問題整理したものに、この論文は使えるのか?例えば論文の内容が20歳代に対する研究であれば、70歳の男性には使うことができないでしょう。もしも、女性ばかりに対する研究だとどうでしょう?またこの論文はアメリカ人のものです。日本人に当てはまるのかな?またこの論文を患者さんに伝えたとしましょう。彼はどう答えるのでしょうか。患者さんの意向も大切です。また併用薬があるのですから、処方医師はどう考えるのでしょうか?内容いかんによっては、伝えなければならないこともあるでしょう。

Step5:上記1〜4のstepの評価
再度、今までの判断が正しかったかどうかを振り返ってみます。一連のステップで患者さんはどうなったのでしょうか?改善するところはなかったのか?を考えます。

EBM とは、ただ医療論文を正しく読むものではないですよね。自分の患者さんに意識をもって、当てはまりそうな情報を探していき、それが適応するのかどうかを見極めるという一連の作業をEBMと言うのだと思います。読むこと、理解すること。重要なのですが、それだけの自己満足に陥らないように。こころがけていきたいですね。

EBMに関するいろんな情報があります。南郷先生のサイトです。わかりやすいです。
ここにあるツールを使えば、正確に情報を読みこなすことができるかもしれないですよ。
http://spell.umin.jp/

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