薬剤師を楽しもう!

EBMにトライしてみようよ

1年ほど前に遠方の薬剤師友達からお誘いを受けました。「これからの薬剤師はやっぱり正しい知識を患者さんに伝えないといけないと思うのよね。よくメーカーの方がもってくるパンフレットあるじゃない。あれって本当に正しいのかどうかを、あなた考えてみたことある?今ね、私たちがEBMのワークショップを開く手伝いをしているの。あなたも来なさいよ。うちの薬局に泊めてあげるからさ。」
・・・・今考えると、お誘いというか・・強制されたというか・・・。

EBM= 根拠に基づいた医療(Evidence-based medicine)。医療において科学的根拠に基づいて診療方法を選択すること。
医療に関する文や説は、いまやあらゆるところにあります。最初、EBMというのを「医療論文を読んで、患者さんの指導に役立てること。」なんだと考えて、ま、それなら役に立つかな?と思い、ワークショップに参加してみることにしました


そして、その行った先のワークショップ。ここでは最初に基礎の講義があり、その後、5ー6名で一つのテーブルを囲んで一本の医療論文を法則にしたがって読んでいきます。メンバーは薬剤師・医師・看護師・助産師・等々。各人の経験や感想やを交えながらのワイワイしたトーク。普通仕事上で他の医療関係者と喋る時にはどうしても「立場」ってものがあります。こういうトークでも立場はありますが、それに関わるリスクがないんです。だからどんな突飛なことでも発言することができます。これってかなり楽しいんですよ。

でもそこでとても重要なことを教えてもらいました。EBMとは通常行われている診療行為を科学的な視点で再評価した上で、患者の問題を解決する手法と位置づけられ、外部の科学的根拠を目の前の患者にどのように適用するかが最も重要なことなのです。

つまりEBMとは
1:私の患者さんの問題を解決するのには、どんな研究があるのか?
2:探してきた研究は正しく研究されているのか?
3:そしてこの研究は、本当に私の患者さんに適用してもいいのか?

の3つが揃ってはじめて患者さんの役に立つ医療を行うことができるんだよ。というとってもヒューマニズム溢れたものだったのです。

で、このワークショップから帰ってきて、一緒に働いている薬剤師に聞いてみました。
「医療論文って読む?どう思う?」聞くと下を向いてイヤ〜な顔をされます。
「やっぱり・・・読まないとダメですよねぇ・・。」「・・・・読んでみたいけど・・むずかしそうでしょ?」「英語・・苦手なんです。」ほんとにそうかしら?

・読まないとダメ?・・・ダメでしょう。メーカーさんの持ってこられるパンフレットにすら、統計のごまかしが存在することがあるのです。いわんやインターネットにあふれている医療情報なんて、玉石混合。患者さんの持ってこられる質問には、正しく答えてあげたい。そうすると正しい情報源にあたることが必要になるでしょう。
・むずかしい?・・・いいえ、コツさえ掴めば全然難しくないんです。そうじゃなければ忙しい医師が多くの文献を読むことができないでしょ。
・英語読めないとダメ?・・・・ある程度は。でも医療論文は論文特有の単語や病名がたくさん出てくるのでずいぶん単語を読み飛ばすことができます。

・・・・というより。
英語じゃなかったら読むの?

ちょっと医療論文の見本を「日本語で」おみせしましょ。


"pravastatinの平均用量は10.0mg/日,simvastatinは5.6mg/日,90%がpravastatin 10mgまたはsimvastatin 5mg。追跡率は91%。終了時まで試験薬を投与していたのは,EPA群71%,対照群73%。
一次エンドポイントはEPA群262例(2.8%),対照群324例(3.5%)とEPA群で有意に低下した(ハザード比0.81;95%信頼区間0.69〜0.95,p=0.011)。
一次予防群:一次エンドポイントはEPA群104例(1.4%),対照群127例(1.7%)で18%低下したが,有意差はみられなかった(p=0.132)"

これはスタチン系薬剤を使用している患者さんにEPAを服用させたらどのような結果になるか?というJELISという有名な研究の結果の一部分だけを記載しました。研究者は日本人ですが、論文はLANCETという雑誌に載って、元は英語でかかれています。この文章はインターネットのサイトで、循環器トライアルデータベースが日本語化してくれたものを借りました。

おそらく今この文章が理解できた人は、英語でも日本語でも医療論文が読める人です。だって普通なら分からない統計で使う単語が満載なんですから。逆に言うと、これらの分からない単語の意味が分かったら、英語だろうと日本語だろうと、あまり関係なく論文は読めるということなんです。

「正しい情報にあたらずに患者さんに応対してちゃいけないんだ。」って事は薬剤師なら分かっていますよね。患者さんは私たちのこと、薬のプロだと思って接してくれる。医師だって同じで「他ならぬ薬剤師さんなら分かっていると思うんだけど・・・。」と言って信用してくれる。
ちょっと統計の単語を覚えるだけで、世界の最先端の研究が得られる状況にある。患者さんからも医師からも信頼されるプロの薬剤師であることができる。それなのに、そのちょっとした努力を怠るってのはどうでしょう?もったいない。勉強する道具や場所は、今やいくらでもあります。少しEBMにトライしてみませんか?「あれ?こんなんでいいんだ。」ときっと思います。

だって本当に難しいのは、論文を読むことじゃなくって、私の患者さんに、どんな情報をあてはめてあげたらいいんだろう?ってことなんですから。


今回のブログ関連のリンクです。
CASPJAPANー私が最初に(今でもですが)はまったワークショップを企画しているところです。
http://caspjp.umin.ac.jp/index.html
循環器トライアルデータベースー循環器に関する研究を載せています。
http://www.ebm-library.jp/circ/index_top.html

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