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ポートフォリオって何?

最近、医療教育現場において「ポートフォリオ」という名前がよく出てくるようになったかと思います。
さて、これは何でしょうか?
インターネットに詳しい方だと金融資産に関して目にしたことがあるのではないでしょうか。投資家が分散投資をすること、またその投資した金融商品の組み合わせのことをさしていると思います。本来ポートフォリオとは「紙ばさみ」のことです。デザイナーなどが自分の作品を入れているファイルのことを指し、建築やデザイン業界では自分の作品を組み合わせて他人に見せるときに作成する「作品」のことをさしています。

現在教育の現場で使われているポートフォリオは、最終的にはその「作品」に近いものです。いろいろな研修を重ねて、生徒自身が成長と自分の評価をわかるようにポートフォリオ(紙ばさみ)を活用するわけですが、これだけでは何のことかわかりませんよね。実際にポートフォリオを使用しての例えば実務実習の主なやり方をあげてみます。

まず、これは研修ですのでビジョンが必要でしょう。何のためにこの先の研修を行うのか?先に指導者と実習生はそのビジョンについての話し合いを持つといいかもしれません。本来実習生に自らのテーマを決めていただいた方がこの先も自主性をもって実習生が研修をできるかと考えます。自分の願い・自分の目標をどんどん書き出してもらいます。これが「ポートフォリオ」の表紙となります。

次に、その目標を達するためにどうしたらいいのか?計画をたてます。指導者も一緒に考えますが、本来は実習生が自分で考えて自分で作ることが大切でしょう。指導者の役割はあまりカリキュラムから外れていないのを確認すること・・くらいでしょう。もちろんこの計画も「ポートフォリオ」にはさみます。そして、その計画にそって日々を過ごします。計画には毎日の計画・毎週の計画・この研修に全般わたっての計画・・などが存在すると思われます。毎日の計画は、その日の朝に、毎週の計画は週の頭に、計画をたてる時間を設けます。

そして計画実行時に行われたこと、その時もらった情報、データ、計画外のこともすべて今日得たものはぜーんぶ「ポートフォリオ」にはさみます。
最後に計画の終わり、例えば毎日の就業時、毎週の最後・・などに計画に関しての分析、感想を、先に書いた計画書に書き込みます。実習者自身の評価も書き込んでもいいでしょう。大切なのはそうやって書き込んだ計画書に、指導者の評価を書き込んでいくのです。

評価というのは、「総括的」つまり試験をして合否をふるいわけるための評価のと「形成的」現在どのあたりまでの能力がありその先にいくためにどの能力が必要なのかをフィードバックするために得る情報としての評価の2種類があります。ポートフォリオでの評価は、あくまでも「形成的」なものです。個人が成長するためにどうしたら自分がもっとよくなるか?を自分自身が考え、また実習生同士、指導者が支援することによって知識や技能だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決力・対応力といった「態度」を学習し、またそれを評価するのが、ポートフォリオというわけです。

さて、研修が一通り終わりました。この後は何らかの形で評価をすることが必要となります。
最初にいろいろな情報をためた「ポートフォリオ」を「元ポートフォリオ」と呼びます。実習生にはこれを再構築していただきます。これを「凝縮ポートフォリオ」といいます。元ポートフォリオの中から自分のテーマと照らし合わせて、これは使える!というものを取捨選択し具体的な提案を交えながら、例えば模造紙などにはっていきます。現在ではPCデータとして行うこともできますね。
私の中では、この凝縮ポートフォリオというものが最終的にかなり重要であると感じています。
なぜなら、今回の研修中で自分が何を得たのか?その経験は何に使うのか?自分の目標に到達できたのか?を自分では俯瞰的に評価することができるため、自己形成につながります。また凝縮ポートフォリオによるプレゼンテーションを行うことにより、実習生相互の成長も期待できます。なにより凝縮ポートフォリオというのは、テーマにそって情報を取捨選択するため俯瞰的に情報を管理することが必要とされます。これには一つ一つの情報だけを見ているのではなく、すべてを上からみることが必要とされます。実際に社会にでてからこの作業はとても必要なことだと思われます。また俯瞰的にみる時に人間の記憶は忘れにくくなりますよね。

ただ凝縮ポートフォリオもですが、元ポートフォリオもかなりこの先有用です。忘れにくいといっても、人間ですから・・・・細かいことは忘れてしまっているかもしれない。その時、元ポートフォリオの中に計画を含むすべての情報が一元的に管理されているのです。忘れても元ポートフォリオを見ればいいわけです。

来年からは6年制における実務実習が始まります。この大学側と受け入れ側はこのポートフォリオを活用することになるでしょう。少なくとも近畿ブロックではそのように決定されているようです。とはいえ、現在の時点では大学側も調整されている機構も受け入れ側もこのポートフォリオに関しての十分な知識を持っているとはいえないように見受けられます。
もちろんすでに何年も前からポートフォリオを使用しておられる大学、受け入れ施設はあります。私もその方たちから指導していただきました。ただこのように全国一斉に行われる場合、知識の偏りがあるのはよくみられることです。ポートフォリオがただのファイリングになってしまっては、学生たちは何のために毎日面倒くさい計画を書かされているのか・・。そう実習生に感じさせてしまってはポートフォリオは単なる連絡帳になってしまいます。その価値を見出さないものが、次世代の指導者になった場合にこのすぐれたツールは意味を失ってしまうでしょう。

指導者にとっては実習生の正確な成長が分かる。実習生にとっては自分がただしく成長しているさまと、それを評価されていることが分かる。

これがポートフォリオの本来の意図であると思われます。このことは頭において、来年の実習生を見守りたいと思います。

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